花笑ふ、消え惑ふ
「花子!」
「へっ?あっ、はい!」
さっきから呼ばれていたのは自分だったのだ。
何度か呼ばれるまで自分の名前が花子であることを思い出せなかった。
「お疲れさまです。芹沢さん」
あわてて振りかえると、すこし不機嫌そうだった芹沢の顔が若干和らいだ。
会議でなにかあったのだろうか。
それとも自分がなかなか反応しなかったからだろうか。
周りには芹沢だけで、土方や総司の姿はなかった。
「いい子にしておったか」
「ええっと……は、はい」
「そうかそうか。小さいのに偉いのう」
わしゃわしゃと子どもにするように頭を撫でられる。
もしかしたら自分は年齢よりも下に見られているのかもしれない、と流は思った。
吉原やここに来てからは年齢より上に見られがちなのでなんだか新鮮だった。
「それじゃあ、行くとするか」
「あっ、はい!裏のお寺……壬生寺、ですよね」
「ちがうぞ」
「えっ」
「これから行くのは────京の町じゃ」
「えっ!?」
流がなにかを言う前に芹沢がその腕をつかんだ。
すこし痛いような、加減がわかっていないような力ではあったものの。
「儂が京の町を案内してやる」
その顔はまるで、悪戯をする子どものようだった。