花笑ふ、消え惑ふ
「せ、芹沢さん……!やっぱりまずいですよ」
「平気だ。土方にバレたとて儂が言い伏せてやる」
「そ、そっちもまずいですけど……!」
流が心配しているのは、京の町を堂々と歩いていることだった。
もしも役人に見つかれば即刻捕らえられてしまう。
流は京の人間ではないから、端から見ればただの町娘に見えるが、分かる人間には分かる。
人で溢れかえっている大路をずんずんと突き進んでいく芹沢は足を止めない。
手をつかまれて後ろを歩いている流は、必死に腕で顔を隠していた。
「芹沢さん……!」
「嘘なんだろう?」
唐突に放たれた芹沢の言葉に、流の喉がひゅっと鳴る。
────バレた?
花子って名前ではないこと?土方の姪ではないこと?
────……わたしが、あの“流”であること?
身を固くした流に、芹沢はようやく足を止めた。
そしてゆっくり振りかえったその顔には、
「お主が狂人で、人を襲うというのは、嘘なのだろう」
人のいい笑顔が広がっていた。