花笑ふ、消え惑ふ
「へ……」
「あんな粗末な演技では儂は騙せんよ」
くつくつと面白そうに目をほそめる芹沢は、ひとしきり笑ったあと、どこか満足そうに息を吐いた。
「でも……この芹沢鴨を騙そうとした女子は、お主が初めてじゃ」
「……たぶん、」
言いかけて、流はぐっと言葉を抑える。
────たぶん、嘘とは言い切れないんです。
土方があのように流を説明したのは意図的か、それとも偶然だったのかはわからない。
だけどあらためて思えば、案外的を射ていたのだ。
自分が狂人で、人を襲う、というのは。
……それほど、間違った説明ではない、と。
芹沢を待っているときに考えていた。
「笠を買いに行くとするか」
「……かさ?」
顔をあげると、芹沢はやさしいまなざしで流を見つめていた。
「お主が町に出たがらない理由はわからぬが……おそらく、顔を見られたくないのだろう?」
「っ、ぅ、……はい」
「だったら隠せばいい。無理に前を向く必要はないからのう」
芹沢が流の手を引いて歩き出す。
「手を引いてやる。転びそうになったら、助けてやる」
さっきとは違う、包みこむような手つきに。
手袋越しに芹沢のあたたかな温度が伝わってきた。
「だから下を向いてでも、歩いてみればいいのだ」