花笑ふ、消え惑ふ
それから芹沢は、定期的に流を外に連れ出した。
土方たちはどうやらふたりが寺で話していると信じているらしい。
芹沢も流をそこまで遅くまで連れ回すこともなく、流が強く断ったため、なにも買い与えられることもなく屯所に戻ってきている。
流は芹沢の隙をついて、何度か大路から外れた小路へと入っていった。
『……ごめんなさい』
予想通り、そこには浮浪者があふれかえるほどいた。
流は知っていた。
こういう煌びやかな場所ほど近くに闇がある。
光があれば闇も存在するように。
天があれば、かならず地もあるのだ。
地面に置いていた手袋をつけ直して、立ちあがる。
大通りに戻ろうとしたときに、こつんとなにかを蹴ってしまった。
見ると、それは親指の爪ほどの小石で。
『流は雲か石だったら、どっちがいい?』
先日した永倉との会話を思い出す。
流に蹴られた石はころころと転がって、壁にぶつかって止まった。
空を見あげると、からっとした青空にぷかぷかと浮かんでいる雲があった。
『あーあ、俺も雲だったらよかったのになぁ』
遠くで芹沢の声が聞こえる。
流ははっとして、元来た道を急いだのだった。