溺愛結婚は突然に〜ホテル王から注がれる、溢れるほどの愛〜
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「紅葉!」
「紅葉、どこに行ってたの!?すごく心配したのよ!?」
結局、私が宿泊予定の部屋に戻ったのは日付を跨いだ後だった。
バーを出たところでお父様の秘書の日暮さんが私を待ち構えていて、それに抗うことなくついて行って部屋に戻った。
もちろんお祖父様のパーティーはとっくに終わっており、両親は日暮さんから私を見つけたと聞いたのか、わざわざ隣にある自分たちの部屋から出て私が帰ってくるのを待っていたらしい。
こんな夜中なのにパーティー前に見た時と同じ服装をしているということは、ずっと私を探して待っていたということだ。
「……心配かけて、申し訳ございませんでした」
どんな理由があろうと、子どもみたいに逃げ出したのは私だ。ここまで心配をかけてしまったことをまず謝らないといけない。
お父様もお母様も素直に謝る私を見て拍子抜けしたのか、怒るに怒れなくなったのか。
困ったように口を閉ざした。
心配する両親に"申し訳ないが今は一人にしてほしい"と頼み困惑する両親を隣の部屋に促し、一人で部屋に入って奥にあるベッドに寝転がる。
天井の美しい模様を眺めながら、私はつい十分ほど前のことを思い返していた。
あの後、彼は『俺のことは優吾って呼んで』と言い、『仕事の連絡ばかりだからスマホを部屋に置いてきたんだ。これ、俺の番号。登録しといて』と私に連絡先を書いた紙を渡してきた。
寝転がったまま鞄の中に入っているその紙を取り出し、書かれている文字を見てみる。
何の変哲も無い電話番号と共に書かれている、"小田切 優吾"の文字。
本人が書いたのだろうか。とても綺麗な字は、育ちの良さを表しているようだった。
そのどれもが非現実的すぎて、さっきの出来事は全て夢だったんじゃないかとさえ思ってしまう。