溺愛結婚は突然に〜ホテル王から注がれる、溢れるほどの愛〜
両親が私の気持ちを知って真剣に話し合っているのを横目に、私はレストランの中をぐるりと見回してみた。
カジノにいたんだ。きっと彼もこのホテルに泊まっているに違いない。
もしかしたらこのレストランにいるかもしれない。
そう思ったものの、軽く見回しただけでは到底見つかるわけもなく。
何やってんだ私は。このホテルには他にもレストランはたくさんある。ここで食事しているとは限らないのに。
そう思いながら一つ溜め息を吐こうとした時。
「紅葉」
「……え?」
「おはよう、紅葉」
「……小田切、さん」
後ろから聞こえた声に振り向くと、そこには数時間振りの小田切 優吾の姿。
その姿が視界に入った瞬間、心臓がドクンと大きな音を奏でる。
「やだな、優吾って呼んでって言っただろ?」
「ゆ、優吾……さん。おはよう、ございます」
一睡もできなかった私とは反対に、たっぷり睡眠を取ったのか、なんだかキラキラと輝きさえ見えるような美しい立ち姿。
私が優吾さんと呼べば満足気に微笑んだ彼は、私の両親に向き直りスマートに挨拶をした。
「お食事中失礼いたします。加賀美副社長、お久しぶりです。【Euphoria Resorts】代表取締役の小田切 優吾と申します。昨日は突然お嬢様を連れ回してしまい、大変申し訳ございませんでした」
「小田切社長!?……え、社長が昨日、うちの娘と?」
「はい。偶然お会いしまして。これも何かの縁かと思い、私の方から一緒に一杯いかがですか?とお誘いいたしました」
「そう、だったんですね……」
優吾さんの訪問に両親は驚きを隠せない表情だったものの、だから昨日見つからなかったのか、と納得したらしい。
優吾さんは私とカジノで出会ったことには触れず、あくまでも自分が連れ出したという体にして話を進めてくれていた。
それは私のためなのだろうか。驚きと同時に、なんだかくすぐったい気持ち。
しばらくお父様と優吾さんが世間話をした後、優吾さんはゆるりと笑う。