溺愛結婚は突然に〜ホテル王から注がれる、溢れるほどの愛〜
「どうぞ」
「……失礼します」
「そんな緊張しなくていいから。適当に座ってて。何か飲む?」
「あ、お構いなく」
レストランを出た私は一度部屋に戻り、身支度を整えてから優吾さんの泊まる部屋を訪ねていた。
プレジデントスイート。その名前だけでこの人がどれだけすごい人なのかわかる。
インターフォンを押すのも躊躇われたものの、待ち構えていたように扉を開けた優吾さんに促されて部屋の中に入った私は、何部屋もある中で中央の広いリビングに通された。そこにある三人掛けのソファの端に腰を下ろしてしばらく待っていると、優吾さんがコーヒーの入ったカップを目の前のテーブルに置いてくれて、部屋全体に芳醇な香りが広がる。
「探したけどコーヒーしかなかった。飲める?ミルクとかいる?」
「いえ、ブラックで大丈夫です。ありがとうございます」
深煎りの豆を使っているのだろうか、僅かに油膜の浮く美味しそうなコーヒーだ。
ありがたく頂戴して、一口飲む。
「うわぁ……美味しい」
思わずそう言葉が溢れるほど、酸味が少なく、かと言って苦味がしつこくない私好みの味。すっきりとした味わいに、ほんの少し私の緊張がほぐれたような気がした。
「良かった」
優吾さんは私の向かいに座り、同じようにコーヒーを一口。
お互いが少し落ち着いたところで、優吾さんが口を開いた。
「昨夜はすぐ寝ちゃった?」
「……いや、まぁ……」
貴方のせいで一睡もできませんでした。なんて言えるわけもなく、曖昧に頷く。