溺愛結婚は突然に〜ホテル王から注がれる、溢れるほどの愛〜
「あ、の」
「ん?」
「今日一日、私は一体何をすれば……」
問いかけると、自分で言ったことを思い出したのか「あぁ」と頷いて。
「特別することはないよ。紅葉が帰る前に俺が一緒に過ごしたかっただけだから。ただの俺のワガママ。紅葉のことをもっと知りたかったのは本音だし、逆に俺のことももっと知ってもらおうかと思って」
紅葉を惚れさせないといけないからね。
そう言った優吾さんは、徐に立ち上がって私の隣に移動する。
ピタッと身体が触れ合う距離に腰を下ろした優吾さん。ほんのり香るムスクが色気を放っていて、一気に私の心拍数が上がった。
「……昨日、本当はあんまり眠れなかっただろ」
「な、なんで……」
「メイクで隠してるみたいだけど、顔色悪い」
ひんやりと冷たい手が私の頬に触れ、その温度差にビクリと肩が跳ねる。
ごめんごめん。なんて言いながら優吾さんはそのまま私の頰を優しく撫でる。
次第に私の体温が移ったのか、優吾さんの手も温かくなってきた。
「……なぁ」
至近距離で私を見つめつつ、彼がそう溢す。
それに視線だけで答えると、今度は私の目の下を優しく撫でた。
「昨日、眠れなかった理由。聞いてもいい?」
「っ……」
「俺のこと意識してくれたから?それとも別の理由?」
テノールボイスが私の耳からすっと脳に入り込んでくる。どこか甘さを含んだそれに合わせるように私の心臓の鼓動はどんどん速くなり、生唾を飲み込む。
「お、お酒飲み過ぎて……時差もあるし、変に目が冴えちゃっただけです……」
「……へぇ?」
触れるだけのキスで寝られなかったなんて、恥ずかし過ぎて知られたくなくて。
バレバレの嘘だってわかってはいるものの、認めるのがなんだか悔しくて意地を張ってしまう。