溺愛結婚は突然に〜ホテル王から注がれる、溢れるほどの愛〜
しかし、どうやらその選択が間違いだったと気が付いたのは、わずかに数秒後。
目の下を撫でていた指が、次第に移動していって。
「あんなキスくらいじゃあ、俺のこと意識してはくれないかぁ……」
「え……」
私の唇を、そっと撫でる。
「じゃあ、もっと攻めないとだな」
「え、っと……」
「惚れさせるには、まずは意識してもらわないとだからな」
「いや、ちょっと待って……」
「待つわけねぇだろ」
言葉とは裏腹に、優吾さんはなんだかとても楽しそうで。
ゆるりと目尻を下げたその表情は、面白いおもちゃを見つけた顔そのものに見えた。
変な意地を張ったことを後悔したが、もう遅い。
「きゃっ」
優吾さんが固まる私の腕を引いたことにより、次の瞬間その胸に抱き付くように飛び込んでしまう。
身体を起こそうとするものの、それを阻むように優吾さんの腕が私の背中に回る。
私の全身をムスクの香りが包み込んだ。
「逃げちゃダメ。このまま」
優しく、でも力強くギュッと抱きしめられた身体。
熱くて、苦しくて。でもそれは、決して嫌なわけではない。むしろ心地良いとさえ感じてしまう自分に驚いた。
だから本気で抵抗することもできなくて、数回その胸を押してもビクともしなかったため諦めて身を委ねた。
「……ん。いい子」
気が付けば頭の後ろに優吾さんの大きな手があり、私の頭をゆっくりと撫でる。
それが子供の頃に戻ったかのように気持ち良くて、思わず目を細めた。
「紅葉」
「……はい」
「顔あげて」
優吾さんの胸に沈んでいた顔を上げると、顎をクイっと持ち上げられて、視線が絡み合う。
吸い込まれてしまいそうな切れ長の目を見つめているうちに、段々と顔が近付いてきて。
そっと重なった唇は、また触れるだけ。
それなのに、また私の思考を奪うには十分すぎるものだった。
柔らかくて、温かくて、甘いのに何故か胸が苦しい。
そんなキスに、私の唇は震える。