溺愛結婚は突然に〜ホテル王から注がれる、溢れるほどの愛〜



しかし、どうやらその選択が間違いだったと気が付いたのは、わずかに数秒後。


目の下を撫でていた指が、次第に移動していって。



「あんなキスくらいじゃあ、俺のこと意識してはくれないかぁ……」


「え……」



私の唇を、そっと撫でる。



「じゃあ、もっと攻めないとだな」


「え、っと……」


「惚れさせるには、まずは意識してもらわないとだからな」


「いや、ちょっと待って……」


「待つわけねぇだろ」



言葉とは裏腹に、優吾さんはなんだかとても楽しそうで。


ゆるりと目尻を下げたその表情は、面白いおもちゃを見つけた顔そのものに見えた。


変な意地を張ったことを後悔したが、もう遅い。



「きゃっ」



優吾さんが固まる私の腕を引いたことにより、次の瞬間その胸に抱き付くように飛び込んでしまう。


身体を起こそうとするものの、それを阻むように優吾さんの腕が私の背中に回る。


私の全身をムスクの香りが包み込んだ。



「逃げちゃダメ。このまま」



優しく、でも力強くギュッと抱きしめられた身体。


熱くて、苦しくて。でもそれは、決して嫌なわけではない。むしろ心地良いとさえ感じてしまう自分に驚いた。


だから本気で抵抗することもできなくて、数回その胸を押してもビクともしなかったため諦めて身を委ねた。



「……ん。いい子」



気が付けば頭の後ろに優吾さんの大きな手があり、私の頭をゆっくりと撫でる。


それが子供の頃に戻ったかのように気持ち良くて、思わず目を細めた。



「紅葉」


「……はい」


「顔あげて」



優吾さんの胸に沈んでいた顔を上げると、顎をクイっと持ち上げられて、視線が絡み合う。


吸い込まれてしまいそうな切れ長の目を見つめているうちに、段々と顔が近付いてきて。


そっと重なった唇は、また触れるだけ。


それなのに、また私の思考を奪うには十分すぎるものだった。


柔らかくて、温かくて、甘いのに何故か胸が苦しい。


そんなキスに、私の唇は震える。


< 23 / 93 >

この作品をシェア

pagetop