溺愛結婚は突然に〜ホテル王から注がれる、溢れるほどの愛〜
「いえ、まだ決まっておりません。紅葉に相応しい者を、と考えると慎重になってしまって……」
「ははっ、その気持ちもわからんでもない。まぁ、まだ後一年はある。しっかりと良い男を探してあげなさい」
「はい」
お祖父様とお父様の会話を聞きながら、私は下を向く。
私が小さい頃から両親から言われていたことの一つに、結婚の話があった。
"加賀美家に生まれた女の子はね、代々二十五歳になったら結婚するの。紅葉もお父様が決めた男の人と結婚することになるから、そのつもりでね"
お母様の言葉は幼い子どもにはよくわからなかったものの、成長するにつれてその意味も理解できる。
私は、二十五歳になると同時に政略結婚をしなければいけない。
それ故に、加賀美家に生まれた女性は皆、大学を卒業すると就職するか結婚のために花嫁修行に勤しむかを選ぶことができる。
そして遅かれ早かれ皆誰かしらと婚約をし、誕生日を迎えると共に結婚しているのだ。
会社のためにはそれが当たり前で、加賀美に生まれたからにはそれに従うしかない。
そういう伝統がある家系だ。意味は理解できる。
しかし。
「紅葉。お祖父様もああ言っていただろう?そろそろわかってくれないか?」
パーティー会場に向かう道中、お父様の困ったような声に私は首を横に振る。
「何度も言っているはずよ。私は好きな人と結婚したい」
「そうは言ってもな?何年も言ってるけど、こればっかりはどうしようもないことだから……」
「お父様の言ってることもわかるけど。……でも、私だって嫌なのよ」
私は物心ついた時から、ずっと同じことを両親に言っていた。
私は政略結婚なんてしたくない。本当に好きな人と結婚したい。
自分の結婚する相手は、自分で選びたい。