溺愛結婚は突然に〜ホテル王から注がれる、溢れるほどの愛〜
「慎ちゃんも今帰り?」
「あぁ。ちょうど紅葉が見えたから。一緒に帰ろうかと思って」
お互い実家に住んでいる私たちは、帰る方向が一緒のため必然的に並んで歩くことが多い。
他の社員も私たちが親戚同士だと知っているため、変な噂が立つこともない。
今日も自然と隣に並んだ慎ちゃんと仕事について話しながらエントランスを潜った。
───そんな時だ。
「紅葉!」
聞こえた声に、身体が固まる。
エントランスの向こうに広がる小さな噴水。
そこに佇む一つの人影を見つけて、息を呑む。
「紅葉」
この一ヶ月忘れもしなかったその甘い声を聞いた瞬間、私は慎ちゃんを置いて走り出した。
後ろから私を呼ぶ声も無視して、私はその声の主の元へ急いで向かう。
そこには私を愛おしそうに見つめる優吾さんの姿があった。
「紅葉。仕事お疲れ」
「優吾さん!どうして日本に?」
「紅葉に会いたくて、ヨーロッパの案件を早めに終わらせて帰国したんだ」
一ヶ月ぶりに会う優吾さんに、私は興奮を隠しきれない。
スーツ姿の優吾さんが眩しい。
「紅葉に早く会いたくて。連絡しようかと思ったけどサプライズもいいかなって思って」
「びっくりしました。でも嬉しいです」
感情のままにそう告げると、優吾さんは嬉しそうに私を抱きしめた後に何かを手渡してくれる。
「これ。ここに来る途中で紅葉に似合いそうな色だと思って買ったんだ」
私の手の中に収まったのは、ピンクや赤を中心とした綺麗な色のミニブーケ。
「詳しくは知らないけど、枯れない花らしい」
ということは、ブリザーブドフラワーということか。
かすみ草とラナンキュラスをメインに作っているようで、華奢なのに華やかなとても素敵なブーケだ。
男性から花束をもらうことなんて今までの人生で一度も無かったため、驚きと感動で言葉が詰まってしまう。