溺愛結婚は突然に〜ホテル王から注がれる、溢れるほどの愛〜
気付き
その日からしばらく、慎ちゃんとは気まずい日々が続いた。
部署も違い、元々そこまで仲が良いわけでもないためたいして支障はないものの、良い気分はしない。
かといって今そんな身内話を誰かに相談するわけにもいかず。
毎日忙しなく働いている優吾さんとは仕事終わりに少し電話のやりとりをするくらいだ。
そんな日々を過ごしながら二週間ほどが経ったある日。
私は幼い頃からの友人の篠原 優恵と一緒に居酒屋に訪れていた。
優恵も都内にある大手企業の社長令嬢で、幼稚園の頃からの仲だ。
煌びやかなお店でお洒落なディナーもいいけれど、私たちは居酒屋で日常を忘れて等身大でお酒が飲めるのが好きでたまにこうやって一緒に来ている。
優恵は半年前に歳上の男性と電撃結婚しており、結婚以来久しぶりの再会だった。
「それは嫉妬ね。ぽっと出た男に紅葉を取られて悔しいんでしょ?」
優恵に慎ちゃんのことを相談してみると、思ってもみない言葉が飛び出して困惑する。
「嫉妬って……慎ちゃんだよ?優恵も知ってるでしょ?」
「もちろん。知った上で言ってるの。あの子、昔から紅葉にだけ態度違ったじゃない。紅葉のこと好きだったんじゃない?」
「そんなこと……」
「今更素直になれなかったところに見知らぬ男。それで八つ当たりしちゃったんじゃないかな」
優恵の話はにわかに信じられなかったものの、確かに昔から慎ちゃんは女の子にはとても優しくて、あんな態度を取るのは私にだけだ。
でももしそれが本当なのだとしても、私の中では慎ちゃんを親戚以上に見ることはどう頑張っても無理だと思う。