溺愛結婚は突然に〜ホテル王から注がれる、溢れるほどの愛〜
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「紅葉?どうした?」
「……いえ、なんでもないです。ちょっと緊張してきちゃって」
「ははっ。怖いの得意なのかと思ってた」
「苦手じゃないんですけど……夜だし、かなり怖いって聞いたから……」
「らしいね。予告も結構恐怖煽ってたし。……じゃあ、これなら大丈夫?」
「っ……」
暗闇の中、小声で話す私たち。
そっと握られた手に恥ずかしさと共に心強さを感じた私は、無言でこくりと数回頷いた。
今日は仕事帰りに優吾さんにデートに誘われ、一緒にレイトショーを見に映画館を訪れていた。
有名なホラーアクションの洋画は、どこか行こうと誘われた時に私が見たいと言ったものだ。
ハリウッドの有名女優が出るため、公開前から猛プッシュで宣伝されており気になっていた。
しかし上映直前になって、前評判でかなり怖いという情報が出ていたのを思い出して緊張してきてしまったのだ。
ネタバレは見たくないタイプだからそれ以外は調べておらず、"かなり怖い"という情報だけが頭の中をぐるぐる回っていた。
ホラーはそんなに苦手じゃないはずなんだけどな。
ドクドクと脈打つ自分の鼓動に深呼吸をした。
スクリーンでは他の映画の予告映像や撮影禁止の有名な映像が流れている。
この、いつ本編が始まるかわからない時間がさらに恐怖を煽ってきた。
本編が始まり、最初の平和な空気が一変。すぐに不穏な空気に変わり、ゾンビがうじゃうじゃと主人公とヒロインを追いかける。
よくあるゾンビとの対決ものだが、特殊メイクがリアルで本当に死体に追いかけられているような、スリル満点のものだった。
映画が終わるとすでに時刻は二十二時を超えていた。
お互いそのまま帰るという選択肢は無く、駅前のバーに入った。