溺愛結婚は突然に〜ホテル王から注がれる、溢れるほどの愛〜
「小田切社長」
「……はい」
「私は紅葉に想いを伝えるつもりはありません。そんな資格もありません。そもそも私はまだ人として未熟で、全てに於いて貴方と張り合える気がしない。だからこそ、これから成長して、貴方よりも良い男になります」
もし、彼が自分の気持ちに素直になっていれば。
もしかしたら、今とは違う未来が待っていたかもしれない。
俺は紅葉と出会うことすらなかったかもしれないし、紅葉の隣にいたのが慎一郎さんだった可能性は十分にある。
彼は俺と張り合える気がしないと言ったが、俺からしてみれば彼は俺が知らない紅葉の二十四年を知っている。幼少期をどのように過ごし、どのように成長したのか。学生時代。社会人になった時。一緒に成長して現在同じ会社で働く彼は、それを全部知っているのだ。
それはたまらなく悔しいし、嫉妬に値するものだった。
どんなに肩書きが優れていても、どんなに成功を収めても、どんなにお金持ちになったとしても。
"一緒に成長してきた"というその過程にだけは、俺は張り合うどころか一生かかっても勝てないのだ。
他の人がどう思うかはわからないものの、俺にとってはそれは確かに羨むべき貴重な財産であり、たまらなく欲しいものだった。
もっと早く紅葉に出会いたかった。もっと昔から、紅葉を知っていたかった。
そうしたら、さらに長い時間紅葉と一緒にいられたのに。