夜が明けぬなら、いっそ。
「触るな…っ、もう私に近づくな、出ていけ、……お前が行かないなら私が出て行く、」
「聞いてくれ小雪、違うんだよ」
「うるさい、黙れ、…お前なんか最初から斬っておけば良かったんだ」
言ってしまってから、ハッと後悔が追いかけてくる。
けれど空気の和らげ方など知らない私には強がるように続けることしか出来なかった。
「…あの夜、…私はお前を斬るべきだったんだ…」
こいつと出会わなければもっと穏やかに人斬りとして生きていた。
吉原や島原だなんてそもそも近付きもしなかったし、そうすればあの壬生浪士組にも捕縛されなかった。
それで今頃、手掛かりもなく変わらず仇討ちを探すために人を殺していただろう。
こいつと出会ってから人を斬っていないから色んな感覚が鈍った。
「───…そうかもしれないな」
私の身体をゆっくりと離しながら、そいつは力なく笑った。
「殺すかい?いま俺を」と、私の愛用していた刀を差し出してくる始末だ。
「お前には殺されてもいいって言っただろ?あれだって決して冗談では無かった」
「ふざけるな…、お前なんか大嫌いだ、殺してやる、」
「うん、いいよ」