夜が明けぬなら、いっそ。
初めてだ。
刀を持つ手がカタカタとむやみにも震えてしまったのは。
こんなの、初めてだ。
「心臓を一突きが得意なんだろう?でもそれだと俺は簡単に死ねてしまうから…首の動脈の少し横を狙え、小雪」
「っ、」
「迷うな。それでお前は救われる」
私はきっと、こいつと対等したならば負けるだろう。
京の花街で芸者を斬った動きを見たとき、敵わないと思った。
そんな男が刀も持たず、刃を向ける私に穏やかな顔をして微笑んでいる。
「なぜ……平気でそんなことが言えるんだ…、」
「俺は根っからの人斬りだからね。大人しく布団で死ねるなんて最初から思っていないよ」
「そんなの…私もだ」
震える私に、そいつは優しく首を横に振った。
違うよと。
お前は布団の上でいいんだよ、と。
それは労咳だからとか、そうではない。
こいつは心から私の幸せを願っているんじゃないかと思わせてくる顔だった。
「殺れ、…トキ」
違う、そんな名前じゃない。
そんな寂しくて冷たい名前じゃない。
私は……小雪だ。
出雲…小雪だ。