夜が明けぬなら、いっそ。




刃を向かわせようと、死に物狂いな声を発して手に力を込めたとき。


それは今までで一番の吐血。
安静にしていなかった報いとやらだろう。

床に飛び散った血を流すように、涙が両目から溢れる。



「来るな…!はぁっ、はっ、近寄るな、気持ち…悪いだろ……っ」


「そんなの言ってる場合じゃないだろ…!!いいから早く寝て!!」


「ゴホッ、ゲホッ、嫌だ…、お前に…移るから、」



惨めだろう、哀れだろう。

お前を殺すことすら出来ないんだ、この人斬りは。


それでいて今はもう父さんの仇すら討てやしないんじゃないかと不安まで過っている。



「…俺に移るって、…お前、もしかして前も、」


「嫌なんだ…お前に、移らせたくない…、だから私のことは……放っておけ…っ、」



こんな病を患った女と一緒の布団で寝ていいなんて、お前は簡単に言ってしまうから。

決してお前と寝るのが嫌なわけでは無かった。

人のぬくもりというのは、お前の温かさは嫌いじゃない。


だけどこれは伝染病でもあるから。

だから避けていたというのに。



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