夜が明けぬなら、いっそ。
「小雪、」
「触るなって言ってるだろ……!」
「嫌だ、俺にお前を触らせてくれ」
「っ…、」
私は今にもお前を殺そうとしていた女だと理解しているのか。
そんな刀は床に転がって、意味を持たないものに変わっていた。
うずくまる私を抱き起こすように腕が回って、そっと頬を包み込んでくれる。
「…けい…しゅ、」
どうして、そんな顔をしているんだ。
それは人斬りが人斬りに対して見せる顔なんかじゃない。
それは私にとって一番遠いと思っていたもの。
だけど誰かさんのおかげで花街に何回か足を運んでしまった為に、嫌でも知ってしまった。
お前がいま私に見せている顔は、男が女に対して魅せる顔だということ。
「…小雪、移っていい。俺に移せ」
「え───…っ!」
血の味だった。
そこにしょっぱさが混じっているような。
それは到底、良いものとは言えなかった。
「お前の全部、…俺に移せばいい」
「っ…!けい…っ…!」
花街では厠に行くだけで男女のそういう行為を目にしていたが。
誰を見ても心底気持ちよさそうで、それは夢のようなものと似ているのかと思っていた。