夜が明けぬなら、いっそ。
偽言の六
「ここが……江戸城…」
「小雪、こちらにおいで」
目の前に聳え立つ立派な門を抜ければ、それ以上の城に迎えられた。
感情を露にすることを滅多にしない私でも、その大きさに呆気に取られていると景秀に優しく腕を引かれる。
城に来たことなど初めてだった。
暗殺者だとしても所詮は庶民として生きてきた私には一生、縁もゆかりも無い場所だと思っていたが。
「景秀様…!ご無事で何よりにございます…!!当分城を空けておられましたので心配しておりましたぞ…!」
「すまないね、爺や。だけど俺はいつ命を落とすか分からない身だと常に言っていたじゃないか」
「何はともあれ、爺やは今日という日を楽しみにしておりました…!」
城内に入るや否や、飛び付く勢いで頭を伏せてきた老人が1人。
きっと古くから住む家来なのだろう。
のちに景秀に聞いてみれば、「俺の育ての親みたいなものさ」と返ってくる。
「ところで爺や、紹介するよ。この子が俺と将来を約束している小雪だ」
「…小雪です。お初にお目にかかれて光栄にございます」
「おお…!これはこれは若く美しいお嬢さんで…!」