夜が明けぬなら、いっそ。
「今晩から3人で食べればいいんだ。そうだろ景秀」
「…うん、俺もそう思った」
言葉足らずな中でも、私の話を最後までちゃんと聞いてくれる。
狂言が好きだということも意外だった。
あんなにも笑い上戸な人だということも。
私は景秀と出会わなかったら、天下を占める将軍様のそんなことすら知れなかったのだ。
こうして奇跡のようなあり得ない体験の真っ只中だとするなら、それを利用させてもらってもいいだろう。
「───…君達に出会えて良かった。ありがとう2人共」
世は薩摩藩と長州藩を筆頭に、徳川幕府を終わらそうとしている情勢が増えているらしい。
佐幕派と倒幕派に分かれ、町人の思想すらも移り変わる時代へ進みつつあるという。
それを将軍であればもちろん知っているはずだ。
「ところで、僕はあの娘の名が知りたいのだ」
「「……は?」」
突如ガラッと変わった空気に、私とそいつの声は重なった。
それは将軍である若い男が天ぷら屋で切磋琢磨に働く若い娘を指差していたからだ。
……その娘の名を知ってどうするつもりだ、この人は。