夜が明けぬなら、いっそ。




それから何事もなく狂言を観覧して、そこでも家茂公の大きな笑い声を聞いた。



「ご苦労だった2人共。あとは我々にお任せを」



帰りはお役目交換というように、新たに揃った護衛2人が城まで送って行った。

景秀は私と寄るところがある、なんて相変わらずの嘘を言って。


ぽつんと取り残される商店街の端。



「小雪、お前を連れて行きたい場所があるんだ。少しでいいから付き合ってくれ」


「…私は疲れた」


「でも楽しそうな顔してる」



ふんっと、否定はしない。

ただ危ないことがなくて良かったとは安心している。



「行きたい場所ってどこだ」


「それは着いてからのお楽しみだ」



手を引かれるまま、人の賑わいを抜けて音が遠くなる場所へ進んでゆく背中。

それは縁日から帰る帰宅路のようなものに似ていた。



「───お!よかった、結構飛んでる!」


「……蛍、か」


「ちょうど季節だったし、俺は昔からよくここに1人で来たりしてね」



こいつがどんなふうに育ったのか、とか。
いつから刀を持ち始めたんだ、とか。

そんな疑問は別に知らなくても問題はない。



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