夜が明けぬなら、いっそ。




「ゴホッ、ケホッ、景秀…やめろ、」


「いいから」


「私がよくない…っ、ゴホッ、」



それに私は蛍ではない。

そんなに優しく包み込まないと消えてしまうと思っているのか。


違うぞ、景秀。

私は蛍よりもずっとずっと弱い火でなんとか生きている女だ。



「けいしゅ、」


「…ん?」


「さっきの蛍は……すごく幸せだったらしい」



きっと、逃げてしまったのはびっくりしたからじゃなく。

こんなにも温かな腕の中に包まれることが怖くなってしまったんだ。

優しすぎるから、幸せすぎるから、怖くなって自分から飛び出してしまった。



「…小雪、なんていうか……今日は一緒に寝ない?」


「斬るぞ」


「…いいよ別に」



目の前を飛び交う柔らかい光。

ふわっ、ふわっと、それは光る雪みたいだった。


こいつと見る雪は嫌いじゃない。



「どうして俺を斬らない?」


「…知らん」


「俺が強すぎるから?」


「───…そうだ」



こいつは強すぎる。

だから私が到底敵うような相手ではないんだ、最初から。


飛んで火に入る夏の虫───…。


そんな言葉があったなと、笑ってしまった。








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