夜が明けぬなら、いっそ。
景秀side




また細くなった。

こうして俺が小雪を抱き締めるのは、それを確認するためでもある。


本当は少し質の悪い風邪なのではないかって思っていなかったことはない。

そう思いたかった。



「景秀、小雪は病を患っているのか」


「…どうして?」


「あの娘の細さは女特有の儚さとはまた違うものがある。…どうなのだ?」



江戸城に戻って、眠ってしまった小雪を部屋に寝かせたあと。

静かに声をかけて来たのは徳川 家茂だった。


どうなのだ?と、俺を追い詰めるように強く問いかけてくる。



「…労咳、なんだって」


「───…ろうがい、」


「そう。最初は俺にすら隠していたくらいでね、まったく小雪らしい」



正直に言ったとしても「城に移るから追い出せ」とは言わないと知っているからこそ、俺は隠さず言った。

かなり家茂くんも小雪を気に入っているらしいし、数少ない彼の友達のようなものだ。



「…治るのか」


「それは君が一番よく知っているだろう?」



こんなにも金も地位もある徳川家ですら、同じ病で倒れてゆく家来達を何人も見てきた。



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