夜が明けぬなら、いっそ。




金で薬が買えたとしても治る見込みはない。

せめて医療が発達してさえくれればいいが、そんなことを言ったらずっとずっと未来の話。


勝算はゼロに近いだろう。



「お主は…だから小雪の隣に居てやっているのか」


「それは違うね」



即答だった。

そんな俺の返事を誰よりも分かっているのも、この親友だろうに。


だからこんなにも暗い話だとしても家茂くんは穏やかに微笑んだ。



「悪いけれどね家茂くん。君が天ぷら屋の娘に対して募った想いとは格が違うんだよ」


「ふっ、…時間など関係あるまい」


「時間じゃないさ、気持ちだよ気持ち」



時間で言ったら俺と小雪だってそこまで長く共にいたわけじゃない。

出会ったのは今年の初めだし、それから常に隣にいただけ。


最初はもちろん興味本位が強かった。

この子が俺をどう殺しに来るかなって、高見の見物のような気持ちで。



「…でも参った。殺してもくれないんだもの」


「……殺せないだろうな。小雪の目を見れば分かる。お前だけを拠り所にしている目だった」


「ははっ、分かったようなことを尻の青い餓鬼に言われたくはないな」



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