夜が明けぬなら、いっそ。
「あれ、小雪?まだ起きてたの?」
「……広すぎるんだ」
湯から上がって用意された部屋へと戻るだけで、また時間を取ってしまった。
おかげで完全なる湯冷め。
城で優雅な生活をさせてもらって、季節は夏も中盤に差し掛かった。
その間、主に日中やっている仕事としては───…そう、万屋。
景秀と一緒に随分とまた変な意味で有名になってしまったらしい。
「そうだ小雪。前に歌ってた和歌、聞かせてよ」
「…断る」
「はは、そう言うと思った」
盆栽や池が丁寧に整えられた中庭を見つめながら、並んで腰かける縁側。
ホウホウと、遠くからフクロウの鳴き声が聞こえてくる。
「明日はどんな依頼があるかな?」
「…猫探しは勘弁して欲しい」
「そう?俺は結構すきだよ。楽しいから」
「平和すぎるのは慣れないんだ」
刀なんか要らないんじゃないかと思わせてくる日々。
サァァァァと、夏夜の生ぬるくも涼しい夜風が今だけでも不安を奪い去ってくれる。
「…新撰組、」
「え?」
「壬生浪士組、居ただろう?どうにも芹沢 鴨が暗殺されて、名を改め“新撰組”になったんだって」