夜が明けぬなら、いっそ。
ここに住むようになってから、景秀に渡されるようになった薬。
一応は労咳用としての小包なのだろうと。
「…あれは…佐吉に渡すべきだ」
「小雪、」
「もう私は十分生きた。…たくさん、人を殺した」
「小雪、黙って」
こんなふうに穏やかに暮らすこと自体、許される身分ではない。
もし父さんが生きていたら怒られていたことだろう。
あんなにも育ててやった報いがこれかと。
国のために剣を振らなくてどうする、と。
きっと、そんなふうに叱られていた。
「きっと、殺せないんだ。仇を前にしても……今の私は殺せない」
「俺は十分に忠告したからね」
「なっ、!」
低い声に微かな恐怖を感じていると、ちゅっと、まずは額。
驚くように反応する暇もなく頬へ落ちてくる。
「やめ…っ、ろ、」
「やっぱりこれくらいしないと君は黙らないってことが良く分かった」
「んっ、」
それは2回目だ。
あの時のようにむさぼり尽くすものと違って、弾けるように軽い接吻。
だけど唇はそのまま髪をかけるように耳へと移行して、また1つと落としてくる。