夜が明けぬなら、いっそ。
たぶん私は、苦虫を踏み潰したような顔を瞬時に作って。
けれど平常を保つために火照る身体は病のせいにして。
いつものように、尻の青いガキとして見られることを望むのだ。
「…私が可哀想になったか」
「違うよ」
「1度たりとも男に抱かれぬまま死んでいく娘に同情でもしたか」
「ちがう」
この空気感は初めてでは無かった。
前に川縁で蛍を一緒に見たとき、そのときもこいつは今のような目で私を見つめてきた。
「俺がお前を抱きたいんだ」
「…、」
逸らさせてもくれない。
そんなにも欲が溜まっているのなら吉原にでも行って来たらどうだ。
そんな言葉さえ、言わさせてもくれないのだ、こいつは。
「…満足、しないだろ…こんな身体では」
「それはやってみなければ分からないよ。でも俺は、抱きたいと思った女を抱けて不満に思う男が居るとは思えない」
「…それは…お前が優しいからだ」
そう思うように出来る男だからだ、お前が。
それか最初で最後だからと私に夢でも見せてくれるつもりだからだ、お前が。
ドクン、ドクン。
心臓の音が聞こえてくるようだった。