夜が明けぬなら、いっそ。




「……叶ってるじゃないか」


「…はい?」


「いま、抱いているぞ。ぎゅってな、しているな」


「………うん、え?あ、えっと、え?」



よかったな、と。

ふんっと鼻を鳴らすように言ってやった。



「…小雪、俺ね、泣きそう」


「なぜだ」


「俺に抱かれるのは嫌?こう見えてわりと腕には自信があるよ」


「花街でたくさん練習したからか」


「……」



泣きそうなのは私だ。

今だって、必死に声が震えないように取り繕うことに必死だ。


でもそれすら伝わっているのか、優しく温かく、それはもう全てを掻き消してくれるように包み込まれる。



「…でも、そんなことしたら本当にお前が消えてしまうかもしれないね」



女を抱いたら必ず夜が明けてしまうから───…。

やっぱりこいつはズルくて馬鹿な男だ。



「…悪いね、小雪。忘れてくれ」



はだけていた襦袢がゆっくり元の姿に戻されていく。

こいつの「悪いね」という言葉も、私は嫌いだ。



「……ありがとう」



そうつぶやいた私に、柔らかい唇だけが少し長く合わさった。


忘れることなんか無理そうだ。

きっと死ぬ間際まで私は未練がましくも覚えているんだろう。



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