夜が明けぬなら、いっそ。
とくに周りを気にせず、もちろん女にもぶつけ本番で合わせてもらうしかない。
千代という名前だって、いつかの誰かの縁談相手の名前だ。
スッと目線で「助けてやる」と伝えれば、娘は察しが良いようで。
コクリと頷いた。
「そ、そうなの。久しぶりに小平太くんに会えたんだもの」
小平太(こへいた)か…。
うむ、中々悪くない名前だ。
「ところで、こちらの方々は?知り合いにしては見ない顔だが」
「道を聞かれてね…!」
「チッ…面倒くせェな」
静かに落とした1人の男、すぐに愛想いい笑いへ変えた。
「そうそう!良ければ兄ちゃんも一緒に案内してくれないか?」
よし、かかった。
一応は刀を持っていたとしても、身なりは普通の男より小柄な私。
だからこそナメてかかった輩は、私なんか簡単に潰せると思ったのだろう。
それからこの娘を襲っても多少の時間を食うに過ぎないと。
「あぁ、喜んで引き受けよう」
こいつらの向かう先は知っている。
我狼番衆の隠れ家、指令所のはずだ。
もちろん先回りして景秀が待っていることだろう。
「───あ、すまない千代」