夜が明けぬなら、いっそ。
どこへ行きたいんだと問いかけてみても、そいつらは「場所の名前を知らなくてよ」なんて誤魔化してくる。
あっちだ、こっちのはずだ、なんて人の目のない方面を指差すものだから。
町を抜けて静かな道が続きそうな辺りで足を止め、私は娘に声をかけた。
「どうしたの、小平太くん」
「さっきの店に財布を忘れてしまった。悪いが、取りに戻ってもらってもいいか」
「え…?私…?」
「あぁ、この者達の案内は私がする。だから千代は早く財布を」
この先まで進んでしまえば、もう引き返すことは出来そうにもない。
だからここで娘を逃がして私がこいつらを斬ってしまえばいいだけだ。
もう本拠地の方はとっくに片が付いてるだろうから。
「でも1人で本当に大丈夫なの…?」
「平気だ」
不安気に見つめてくる。
逃げろと、私は瞳で語っているのだ。
「わ、分かったわ。気を付けてね」
「あぁ、お前もな」
千代は小走りに町へ戻って行った。
まだ辺りはそこまで暗くない。
少し先に子連れの若い夫婦ともすれ違った。
だからそこは心配していない───が。