夜が明けぬなら、いっそ。
「どうしたんじゃ、具合でも悪いんか…?」
言葉なく崩れ落ちた俺の背中を撫でる、老婆の頼りないぬくもり。
君は、雪を見れたのかい。
君はその雪を、誰かに例えて見たりしていたのかい。
俺があんなことを言ったから、ずっと雪が降ってくれるのを最後までひとり待ち続けていたんだろう。
君は───…幸せだったのかい。
「っ…、ぅ、っ、」
ふわり、ふわり。
空から降ってくる雪は冷たいわけではなくて。
こうして一緒に溶けていくならば俺も連れて行ってくれたっていいのに───…。
そんな俺を見て、鼻で笑っているような雪だった。
「…すみません、こんなところで」
「お主、小雪の知り合いなのか…?」
「…いいえ。知り合いだなんて綺麗なものではありませんよ」
涙を拭って立ち上がる。
風呂敷の中に詰めた着物をもう1度手にしてから、柔らかく首を横に振った。
そんな綺麗なものじゃなかったんだ。
俺はお前にとっての仇で、ずっとずっと恨まれるべき存在だったんだから。
だけど不思議なことに思い出は全て綺麗なものばかりなんだよ、小雪。
「でも───…惚れていました」