夜が明けぬなら、いっそ。




ぐいっと引き寄せられたことで、「わっ」と咄嗟に声が出てしまった。

けれど引き寄せた本人は気にしていなさそう。



「うわ…!なにすんだよ兄ちゃん…!!」


「女の子には優しくしろって俺は昔から教えてただろ」



そんな弟に一撃与えた兄。

容赦なくドカッ!!と、音がした。


女の子……。

そんなふうに言われたのは初めてだ。



「女の子って…!こいつ普段から無口だし全然笑わねぇし、まぁ顔は可愛いから付き合ってやってるけどさ!」



別れていいなら今すぐにでも別れたい。
そう言っても了承しないのも、この人だ。

付き合って“やってる”だなんて。

それだって私の台詞なのに。


けれど言葉には出さず静かに見守っていた私を、もう1人はじっと黒縁の先から見つめてくる。



「……君、本当にこいつと付き合ってるの?」


「…一応…」


「正気?俺は兄貴だけど、こいつだけはオススメしないよ」



「やめときな」と、言葉にされなくてもその人の目から伝わってくる。


どう反応したらいいか分からない私に、ふっと笑ったお兄さん。



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