夜が明けぬなら、いっそ。
「まぁそれはね、俺がどうこう言うことではないけど。でも少しでも何かあったら言って。こいつの兄貴として責任は取るから」
ありがとうございます、の意味を込めて軽く頭を下げておいた。
そしてお兄さんは腕時計を確認する様子から、なにか急ぎの用があるらしく弟を連れ帰るつもりはないらしいのだ。
「ちょっと兄ちゃん!俺早退してぇんだけど!!」
「このあと編集長のとこ行かなきゃなんだよ。お前なんかに構ってる暇ないから。
それと君はもうこんなやつ放って授業に戻っていいよ」
私の背中をぽんっと押すようにしてドアの前へ誘導される。
ベッドに弟は置き去りのまま。
「おい…!兄ちゃんっ!そんなの人の彼女口説きに来ただけじゃん…!」
「口説いてないよ別に。俺はね、世界平和を目指してるだけだから」
世界平和───…。
そんな単語が、どこか懐かしく聞こえた。
よく分からない無邪気な発言にくすっと笑ってしまえば、微笑んだような音が答えてくれる。
その微笑みは覗き込むように私を優しく見つめてきた人からだった。
「ちゃんと笑えるのにね?少し不器用なだけで、…たぶん昔から」