夜が明けぬなら、いっそ。




昔…?

この人とは初対面のはずなのに、どうにも変わった会話をしてくるんだと思った。



「───あ…、雪、」


「え?雪?……お、本当だ」



ふと視線を移した先、保健室から見える窓の外にふわりふわりと舞い落ちる塊。

それを世間では雪と言う。


情緒を感じられる兄と違ってスマホゲームに夢中な弟は、そんなものを気にもしない。

「そりゃ冬だし当たり前だろ」なんて捨てるように言っていた。



「綺麗だね、雪」


「…あぁ、」



降り注ぐ雪に夢中になりすぎて、無意識にもぶっきらぼうな返事になってしまった。


寒い季節は苦手だったけれど、雪は昔から好きで。

都会のこの町は積もる程に降ることは珍しいから。


今も地面に落ちるより前に溶けてしまうような儚い雪だ。



「粉雪…というよりは、小雪かな」


「───…こゆき、」


「出版社の編集部に勤めてるからか、そういう綺麗な言葉とか好きなんだよね俺」



小雪……。

確かに綺麗な響きだと思う。


小説かな、絵本かな、そんな想像が膨らんでは心地がいい。



「…たぶん昔から俺は“小雪”がね……好きなんだよ」


「私も───…すき、だ」



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