夜が明けぬなら、いっそ。
きょとんと反応したのはまだ若く、人の良さそうな青年だった。
だからこそ芹沢はあえて名指しをしたのだろう。
なんて性格の悪い男なんだと、土方や近藤に同情さえ生まれた。
「お前はまだ人を斬ったことが無いだろう。それだから壬生浪士組は京から馬鹿にされるんだ」
「芹沢、てめえ…!!」
「黙れ土方。ほら沖田、そんな腑抜けでは近藤の役に立てないぞ?」
その腰には確かに2つ刀が差されているが、まだ綺麗だった。
血に汚れてもいなければ、武士を夢見て喜ぶ子供のお飾りのようなものにも見えてしまうそれ。
「…わかりました、やります」
「やめろ総司!だったら…俺がやってやる」
「いいえ、僕は剣士ですよ土方さん。こんなものは遅かれ早かれなんだ。
最初に女を斬って経験しておけば、この先は楽になるでしょう」
あぁ、まだその青年には人を斬れないと思った。この男はまだ人斬りにはなれない。
それは景秀も同じことを思っているだろう。
そして芹沢 鴨(せりざわ かも)という男の目にも。
「では俺がやりましょう」
「───…え、」