夜が明けぬなら、いっそ。
憂いの二
『今日からお前は、この徳川家に支える暗殺者だ。いいか景秀』
『…はい』
その日、少年に新しい苗字が渡された。
それは信じられない程に名のある将軍のもので。
嬉しさと緊張、よく分からない中で僅か9つの少年は頷いた。
『でも俺はまだ…人をころせない、です』
『殺すだけが暗殺ではない。だんだん覚えていけばいいだけだ』
その界隈では幼い子というのは、どうやら使えるらしいのだ。
大人の懐に簡単に入ることが出来てしまうから。
そんな自分も小さなときから人斬りとして物騒なことばかりを教えられてきた。
世の中には自分だけでなく、そんなふうに教育されている子供がどこかに居るんだろうと。
『先生、失礼致します』
『おぉ、戸ノ内か。入れ入れ』
広すぎる城内に入ってきた、“戸ノ内”と呼ばれた男。
少年をこの徳川幕府へ誘い入れた幕臣の男とは古くからの付き合いらしい。
まるで師弟関係のような2人を前にして、幼いながらも関係性を悟った。
『たまたま私も江戸へ参りましたので、近況報告をと思いまして』
『俺も聞きたいと思っていた。お前のところはどうだ?』