夜が明けぬなら、いっそ。
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「………」
少し前から目は覚めてしまっていた。
寝付けなかったわけではないが、人の温もりというものは慣れていないからこそ感知してしまう。
闇が広がる蔵の中、己の頬を撫でる男の手。
「…悪いね、起こしてしまったかな」
「……私の頬に何か付いていたか」
「いいや?雪のように白いなぁと感心していたんだ」
その手は退かすつもりはないらしい。
今度は黒い髪へ移動して、優しくとかすように撫でてくる。
「…お前は眠れないのか」
「少し昔の夢を見てね、目が冴えたみたいで手持ちぶさたになっただけだよ」
手持ちぶさたになると私に触れてくるのか、この男は。
よく分からない奴だ。
けれど嫌ではない自分が不思議だった。
誰かに触れられることなど滅多に無かったものだが、こいつだけは油断も隙もない動きで手を伸ばしてくる。
「…なぜ…私と一緒に居るんだ」
「ん?」
「今日だって、暗殺の仕事があったなら最初から島原に向かえば良かっただろう」
それなのにわざわざ墓参りまでついて来て、なんやかんやで壬生浪士組に捕まってしまった。