夜が明けぬなら、いっそ。
「実は俺も随分と酒に酔っていたんです。だから騒ぎを停止させるには、ああするしかないと思いまして」
「それで島原の芸者を殺したってか?適当にも程があんだよ馬鹿野郎」
「でも俺がそうしなかったら、あなたの大切なお仲間さんが人を斬っているところでしたよ」
俺はあんた達を助けたつもりだったんですがね───と。
ペラペラペラペラ、景秀の言い訳のような説明に土方は眉間を寄せるばかりだった。
「なら、お前らは誰だ?剣裁きといい、その身なりといい、どこかの藩主なのか」
「いいえ。俺達は生き別れた両親を探して遠路遥々田舎からやって来た、
ちょっぴし腕のあるしがない兄弟に過ぎませんよ。そうだろう?小雪」
「…あぁ、そうです兄上」
それは朝から尋問だった。
せめて朝食くらい分け与えてくれても良いだろう、なんて甘い考えで眠気眼に話を合わせておいた。
「…兄上、」
「ん?どうしたいんだい小雪」
「…お腹が空いた」
くいっと、隣の袖を引いてみる。
これは蔵で景秀と練った策の1つだった。
貧乏で可哀想な田舎者の兄弟を演じて同情を少しでも買えたなら優しくしてくれるはず、と。