夜が明けぬなら、いっそ。
「あぁ可哀想に。3日前から川の水しか飲んでいないからね。ごめんな小雪、こんな兄さんで俺は情けないよ…」
よーしよしと犬を撫でるように抱え込まれた。
…面倒だがここは耐えるしかない。
さっさとこんな場所をいち早く退散する為の辛抱だ。
「なに言ってんだてめえら。島原に行っておいてふざけたこと抜かしやがる」
「……」
作戦失敗。
どうやら土方の目とやらは、かなり厄介らしい。
「妙に俺達に近づいて、仕舞いには芹沢の懐にも入りやがった。…それも全て計算済みの間者じゃねえだろうな?」
「…兄上、“かんじゃ”ってなんだ?」
「こんないたいけな少年に物騒な言葉を教えないでくれませんか、土方さん。
小雪だけは両親の代わりに純粋に育てたいんだ俺は」
私の助け船に景秀が乗っかり、最終的に土方の舌打ちで落ちた。
ここは上手くいったようで。
「あの芸者は俺達の両親を苦しめた女なんです…、だから俺は仇を討ちました」
「…本当か?」
「こんな嘘は吐きたくないですよ」
じっと半信半疑な眼差しで見つめられる。
鋭く切れ長で、それはいつか必ず何かを成し遂げるだろうと思わせる目をしていた。