夜が明けぬなら、いっそ。
私の肩をポンポンと叩くと、すぐに部屋を出ていった近藤さんという男。
この男は昨夜もそうだった。
お節介が過ぎる程に、刀を持つ男にしては優しすぎるんじゃないかと思う。
「どうか遠慮せずこれを食べるといい」
しばらくして現れた男の手には、不恰好で大きな握り飯が2つ。
景秀と私の手に無理矢理にも1つずつ渡すと、早く早くと急かすように見つめてきた。
「すまないね近藤さん。有り難く頂戴します。ほら小雪、彼にお礼を」
「……ありがとう…ございます」
昨夜は島原でたらふく豪華な食事を取った。
そうだというのに、こんなにも呆気なく騙されてくれた男の握った飯は美味く食べられるだろうかと。
そんな不安が大きい中で小さく齧ってみれば───…具が何も入っていない。
「……梅はないのか」
「こら小雪。頂いておいてそれはないだろ」
ペシッと“兄上”に額(ひたい)を叩かれた。
……この野郎、あとで斬ってやる。
「あぁすまない!咄嗟なことだったのでな、つい忘れてしまった!」
愉快そうに笑う近藤。
はあと頭を抱えながらため息を吐く土方に、傍で何か物憂げに見つめている沖田。