夜が明けぬなら、いっそ。




ぶわっと男達の前には昨夜の情景が甦ったはずだ。


気づいたら芸者が1人、綺麗に音もなく倒れていた瞬間を。

抜刀の音さえ聞こえなかった。
あんなにも近くに立っていた、この私でさえ。



「…あなたに教えてもらいたいことがあるんです。お願いします、景秀さん」



それでも沖田は折れる気など更々ないようだった。

まっすぐと、青年にしては珍しい表情をしていたのだろう。

静寂がもっと静寂を生んで、それを切り裂くように立ち上がった景秀。



「行こう沖田くん。道場へ案内してくれ」


「はい。こちらです」



───と、沖田と共に襖を出ようとした男は私の名前を型どった。



「小雪、お前はどうする?一緒に沖田くんと手合わせするかい?あぁそれか、お前には俺も1度願いたいくらいだね」


「…私はいい。この屯所とやらを見て回る」


「そう。迷子になってはいけないよ」


「たわけ、もう大人だ」



まだ子供だ、と同じように返してきた。


私はもう15だから元服しているというのに。

そんな会話を続けることが面倒で、顔を逸らして無視を決め込んだ。








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