夜が明けぬなら、いっそ。




え…?と、戸惑う声にかぶりを振って笑顔に変える。



「とりあえず俺は汗をかいたから湯を浴びさせて欲しいんだけれど。
最近はずっと冬空の下で池の水だなんて、冗談抜きで死んでしまうと思わない?」



少し動揺している青年は礼儀作法だけは身に付いていた。

「ありがとうございました」と、俺に頭を下げてからお礼と言って風呂場へ案内してくれる。



「沖田くんも一緒にどう?一応は一汗流した仲なんだからさ」


「…変な言い方やめてもらえますか。僕にそういった趣味はありませんので」


「ははっ、すまない。ただ人斬りとして生きるなら真面目すぎるのは良くないとだけ言っておくよ」



本当に丁寧に湯を沸かしてくれる様は、剣から離れた田舎で育った青年そのものだ。



「僕はそこまで真面目ではありませんよ。昔から人をおちょくってからかってばかり居ま───…」



他愛ない話をしながら脱衣場で衣服を剥ぎ取った俺を、視線が射抜くような静けさが背中に広がる。



「…なにか?」


「その傷…、見ているだけで痛々しいですね」


「あぁこれ?俺が15のときだったかな。
…まぁ昔の古傷だから平気」



確かに珍しいとは思う。

こんなものは他人に簡単に見せてはいけない傷だとも。


まるで罪人に埋め込まれるように、大きくバッテンに彫られた跡など───。








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