夜が明けぬなら、いっそ。
───誰かいる。
呼び出したのは自分だったが、そこには次の暗殺的である石川 尚徳の姿ではなく。
既に転がる屍に「痛みは出来るだけ無くしたから恨まないでくれ」と、話しかけて合掌している男が1人いた。
「お、待っていたよ」
気配は消していたはずが、なぜ見破られたのかと分からなかった。
それとも男の独り言か、適当に放たれた言葉か。
「っ、」
「今晩は一段と冷えるらしい。そんな薄着で平気?」
それを分析しているうちには自分が立つ領域に入ってきた男。
咄嗟に半歩下がって身構えた。
チャキ───と、腰に差す1つの柄に手をかける。
いつでもいい、どこからでもいい。
正面から来たならば喉を一突き。
回り込もうならば、身体を反転させて背中から刺してやろう。
「あぁ、やめやめ。俺は世界平和を目指してるから」
こいつか、と。
江戸の町で噂されているひょうきんな人斬りとは。
構える私とは反対に、そいつは覗き込むように首を曲げてきた。
笠の中からバチッと合う視線。
「これは驚いた」