夜が明けぬなら、いっそ。
「ごめん、ちょっとね、慣れない野良猫がやっと甘えてくれた感覚?
なんていうか愛しさが込み上げてしまった」
「ふざけたこと言うな。今のは忘れろ」
「俺は嬉しかったよ?君はまだ15なんだから」
こいつ…忘れる気は更々ないらしい。
むしろ覚えている気だ。
なにがあっても忘れない、なんて覚悟すら見える。
「そうだ小雪、そろそろ好きな花は出来た?」
「…水仙」
「お、確かに途中で綺麗に咲いてたね。どうして好きになったの?」
「阿保っぽいからだ」
ん?と、背中から聞き間違えたような反応をされる。
けれど間違えてない。
どうして好きになったのか、それは見た目が阿保っぽいからだ。
「嘴(くちばし)みたいになっているあれを見ていると、良い意味で気が散る。だから気に入った」
「…それはまた小雪っぽい理由だ」
この男の中で私の名前は“トキ”ではないらしい。
そんな純白で綺麗な名前は周りに笑われるんじゃないかとも思うが、わざわざ言い直させることも面倒だった。
「水仙…か。花にはそれぞれ意味があるって知ってた?」
「そういうものからは遠く育った。…知っているわけがないだろ」