夜が明けぬなら、いっそ。
「……他の着物はないのか」
「あぁ、ごめんよ。これしか無くてさ」
「冗談はよせ。呉服屋には袴だって売っているはずだ」
「それが売り切れていたんだ。いやぁ困った困った」
……わざとらしい。
それが見破られないとでも思っているのか。
翌日、町へ下って濡れた衣服の代わりを買って来てくれたかと思えば。
こいつに任せて失敗だった。
「動きづらい。これじゃあ人が斬れないだろ」
「女の子がそんなこと言ってはいけないと言ったじゃないか。
せめてその着物を着ているときくらいは普通で居させてやりたいんだ、俺も」
「……」
俺の気持ちを汲んで欲しい───なんて目で見られてしまっては。
撫子色をした着物、そして純白をした帯には水仙が描かれていた。
私が好きだと言ったからか…?
それとも、たまたまなのか…?
「なぜ…こんなことをしてくれるんだ」
武家の女が身にまとうような綺麗な厚手の着物だ。
こんなものに袖を通したのは生まれて初めてだった。
汚さないように、血を付けないようにしなくてはと、変な緊張感がある。