夜が明けぬなら、いっそ。
「景秀、」
「んー?」
「お前の本当の家族は…どこにいるんだ」
さっきから1匹も捕れていない動きと顔が、ピタリと制止された。
川の流れに引きずられないように2本の足はしっかりと着地している。
ぐいっと、顔に飛んだ水しぶきを拭った景秀。
「…俺も小雪と一緒。小さい頃から孤児でね、気づいたときには徳川家に連れられてた」
「…そう…だったのか」
探るな、なんて言われるかと思った。
それかキツい言葉でも浴びせられるんじゃないかと。
そうはしなかったこの男はきっと、優しいのだ。
「お、掴んだ!小雪!籠!籠はやく!」
「…あぁ、」
「よしっ!あっ、うわっ!」
「お前…!私を掴むな…っ!」
バッシャーーーン!!!
一番の水しぶきが舞い上がって、籠に入っていた数匹の鮎は川へ逃げて行った。
そんな川を泳ぐ魚に混じる人間が2人。
「……せっかく着替えたのに濡らしてどうする」
「はは、悪い。案外難しいんだね魚捕りって」
「…これじゃ風邪を引くだろ」
……寒すぎる。
夕餉は町で買って帰ろうか、と言いながら景秀は手を差し出してきた。