夜が明けぬなら、いっそ。




それを掴もうと伸ばしかけた瞬間───



「おーーい!!あんた達、大丈夫かーー!!無事かーーー!?」



山から降りてくるように農民が駆け寄ってきた。

遠くからはよく分からなかったが、私と同じ歳ほどの少年。



「魚、逃げられたろ!オレが譲っちゃる!それにびしょ濡れじゃないか!!」



また新しい顔だ。

名前を聞かれて聞いて、生まれを聞かれて聞いて、そんなものが面倒だから目立ちたくはなかったというのに…。



「オレは数馬(かずま)ってんだ!歳は15で、この町で有名な豪農の息子!」


「…数馬くんね。俺は景秀、この子は小雪」


「小雪!!よ、よろしくな!!」


「……よろしく」



魚は言われたとおり譲ってもらった。


パチパチと囲炉裏の前に串刺しされた鮎。

塩をまぶして焼いて、丁度な頃合いに齧り付いた人数は3人。



「それで、君はどうして俺達の家に?」


「いいじゃねぇか!飯は人数が多い方が美味いもんだってんだ!」



私と目を合わせては逸らして、それなのにまた合わせてくる数馬という男。



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