夜が明けぬなら、いっそ。




「小雪、それって誰?」


「…岡田 以蔵(おかだ いぞう)だ。お前も知っているんじゃないか」


「岡田…以蔵って…」


「あぁ、かなり凄腕の人斬りらしい。1度手合わせしてみたいものだな」



はあ、と。

どこか張りつめていた肩の重みが落ちたような反応をされる。



「そうじゃなくて、惚れている男は居ないのかって話だよ。まったく小雪らしいけれど」


「そんなものはいない。大体、惚れてるってなんだ」


「そういうことだ数馬。残念だったね」



がっくし。

景秀が笑いかけると、今度は分かりやすいくらい肩を落としてきた数馬。



「そういうお前はいるのか、」


「え、俺かい?」


「女には人気そうだが、連れ歩いているところは1度も見たことがない」



花街でもわざわざ選ぶことはせず、女から来るような男だ。

通い慣れたものなんだろうな…とは思っている。


しかし町の女にも黄色い声を上げられるが、応えているところはあまり見なかった。



「んー、あまり女にそういう感情は抱かない。それは小雪がよく知っているはずだ」



< 61 / 210 >

この作品をシェア

pagetop