夜が明けぬなら、いっそ。
「小雪、それって誰?」
「…岡田 以蔵(おかだ いぞう)だ。お前も知っているんじゃないか」
「岡田…以蔵って…」
「あぁ、かなり凄腕の人斬りらしい。1度手合わせしてみたいものだな」
はあ、と。
どこか張りつめていた肩の重みが落ちたような反応をされる。
「そうじゃなくて、惚れている男は居ないのかって話だよ。まったく小雪らしいけれど」
「そんなものはいない。大体、惚れてるってなんだ」
「そういうことだ数馬。残念だったね」
がっくし。
景秀が笑いかけると、今度は分かりやすいくらい肩を落としてきた数馬。
「そういうお前はいるのか、」
「え、俺かい?」
「女には人気そうだが、連れ歩いているところは1度も見たことがない」
花街でもわざわざ選ぶことはせず、女から来るような男だ。
通い慣れたものなんだろうな…とは思っている。
しかし町の女にも黄色い声を上げられるが、応えているところはあまり見なかった。
「んー、あまり女にそういう感情は抱かない。それは小雪がよく知っているはずだ」