夜が明けぬなら、いっそ。
「お前は戸ノ内の仇を討てさえすれば、もう人斬りとして生きる理由はないんだろう?それなら簡単な話さ」
「…今ここにそいつを連れて来てくれるとでも言うのか」
その伏せた目の意味はなんだ、どうしてお前がそんな顔をしているんだ。
それは肯定か否定か。
「小雪、俺は……世界平和を目指しているんだよ」
「けいしゅ…?」
「…“うん、けいしゅだよ”」
その声は少し震えていた。
囲炉裏の炎だけが照らしてくれる暗がりの中、男は着物の紐をいつかのようにほどき始めた。
「…やめておけ、風邪を引くぞ」
「最初に言っただろ俺は。間違ってることが結果として誰かを救う可能性だってある、と」
パサリ───、目の前の着物は床に落ちた。
無駄のない鍛え上げられた身体、所々に見える刀傷。
それは人斬りとして剣士として生きてきた何よりの証だろう。
「小雪、いや…トキ。俺の背中に回ってくれるか」
「…なぜだ」
「なんでも」
お前の背中を見たところでバッテンがあるとは思えない。
お前じゃない、だって父さんが殺されたのは私が9つの頃だ。
この男だってその時はまだ今の私くらいのはずなのだ。