夜が明けぬなら、いっそ。




蘭方医なんかに見せてどうなる。

薬が貰えるのか?
通院すれば治るのか?

いいや、これは治らない。


薄々わかっていた、景秀には隠していたが明らかに悪化していたこと。



「…頼む、私にはやるべきことがあるんだ…、こんなところで大人しくしてるわけにはいかないんだよ…」


「…小雪、」


「───…すこし……ねる、」



これは死病だ。
患う者が一番多い病気だ。

そしてどんどん身体を貪ってゆくそれは、労咳(ろうがい)という名を持つ。


だけど吐血したのは今日が初めてだった。



「…お前は……良い奴だ、…ありがとう」



お前だけは私を女の子だなんて言ってくれる。

最初はそれが痒くて痒くて仕方なかったが、“小雪”と呼ばれる名前もいつからか嫌いでは無くなった。


共に食べる食事が、並んで歩く道が、いつからか楽しいだなんて。

そう思っていたことは確かだ。



「小雪、…お前はやっぱり小雪だ」



きっと今の私は笑っているんだろう。

嬉しそうに、幸せそうに、笑っているんだ。


もし私が近いうち死ぬときが来たら……こんな腕の中で逝けたら悔いは無いんだろうと。

そんなくだらないことを考えてしまった。








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